【進化の予感】小池一夫のキャラクター論に触れて

「さて――」洞窟の最奥の部屋で、伝説の真実を名探偵は開陳しはじめた。

 

地に足をつけた人間を書きなさい、そうずっと指摘されてきましたが、具体的にどうすればいいのかわかりませんでした。自分なりに頭を働かしてチャレンジしても、全然書けていない、との講評は変わりませんでした。

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世の中うまくできてるもんで、困っていたら誰がが思わぬところで手を差し伸べてくれます。知人が小池一夫を紹介してくれました。「変化と進化のスーパーキャラクター」という彼の本を一読して、「キャラクター」こそが自分に足りないことがわかりました。

今回はキャラクターの創作について、「子連れ狼」などのメガヒット漫画の原作者としてご活躍されてきた小池一夫氏に学びます。

 

「キャラクターを起てる」が真理

人は物語の「ストーリー」に惹かれるのではありません。

物語に登場する「キャラクター」に惹かれるのです。

「変化と進化のスーパーキャラクター」小池一夫 pp24

嘘だろ!物語の不思議な展開に惹かれるはずだよ! そう僕は強く反応しました。まあ、漫画ならそうかもしれません。ゴルゴ13、ルパン三世、岸辺露伴、ルフイ、悟空、ドラえもん etc。すげえ、かっけえ、なんて憧れてしまいます。

でも小説は、特に純文学は違うんじゃない、と思いました。けれどすぐに考え直しました。例えば、村上春樹の登場人物の「僕」「羊男」(ダンス・ダンス・ダンス)、「大島さん」(海辺のカフカ)に惹かれている自分を発見したのです。彼らが見る世界の景色や生きる態度に憧れていたのです。もっと抽象的に言えば、村上春樹的世界観の住人に惹かれているのです。同様に、中村文則的、村上龍的、ポール・オースター的、ジョン・アーヴィング的世界観の住人がそれぞれ好きだということにも気づきました。その住人たちが不思議な展開に巻き込まれ、何かを発見し、どのような深さであれ生まれ変わる、それを求めていたのです。

創作にあたって、まったくといっていいほど登場人物に向き合っていなかった自分の愚かさに不甲斐なくなりました。

ようやく進むべき方向がわかった気がします。こちらに進めば、バージョンアップできる、という予感。幸福な予感です。

 

キャラクターの創り方「プロファイリング」

具体的なキャラクターの創り方をキャラクター・プロファイリングと小池氏は命名しています。簡単に言えば、キャラクターの履歴書を作成することです。下記のような項目があります。

・名前

・身体的特徴 顔、年齢、性別、体型など

・しぐさ   癖、立ち振る舞い、喋り方、

・アイテム  持ちもの、服装・髪型

・内面    主人公にはオーラ、適役にはカリスマ性、弱点・欠点、願い・夢・目標、

好き嫌い、趣味、信念、謎、秘密、過去・生い立ち、来歴

「変化と進化のスーパーキャラクター」小池一夫 pp55-70

これだけの項目のそれぞれについて小池氏は解説しています。キャラクターに対するアプローチの仕方には脱帽です。熱の入り方がまったく違います。いかに登場人物の創作をないがしろにしていたかを思い知らされました。

 

薄井ゆうじ氏の教えと共鳴

登場人物のすべてを知っていなければいけない、と薄井ゆうじ氏も指摘しています。そうでなければ、椅子に座った男を立ち上がらせることもできない、とも。キャラクターという言葉こそ使っていませんが、薄井ゆうじ氏と小池一夫氏が指摘するところは同じだったのです。

薄井ゆうじ氏もキャラクター・プロファイリングと同様のことを指導してくれました。電車のなかや、銀行の待合室で、目に止まった人物の背景を一瞬で想像する方法です。具体例を見つけたので紹介します。

彼の名前は渡辺庸一。五年前に準大手電気メーカーを定年退職したのち、会社の再雇用プログラムにより、昨秋まで系列企業で働いていた。上場企業だけに退職金はまずまず出た。年金も、女房と二人で生活するには充分な額が支給されている。体も健康そのもので、まさに悠々自適の老後である。ところが彼は四十年間を社畜として生きてきたため趣味がない。盆栽やゲートボールを始めてみるが長続きせず、結局時代劇の再放送を見るくらいしかすることがない。すると、古女房と一日中顔を合わせることになり、これが不愉快でならない。加えて、このままゴロゴロ過ごしいたら早々にボケてしまうのではとの危機感が芽生える。そこで彼は、タバコ銭稼ぎも兼ねて清掃のしごとを始めたのだった。以上、俺の勝手な想像。

「葉桜の季節に君を想うということ」歌野晶午 文春文庫 pp213

 

突破口が見えてきた

実際にやってみましたが、すでに効果を感じています。何かが起きそうな予感に満ちています。ある人物のプロフィールを考えていると、その登場人物の過去も想像しなければなりません。何が彼・彼女に起きたのか、そして何がこれから起きるのかを想像するのは、物語の展開を追うのとはまた違った、創作の喜びを感じます。

もっと突き詰めれば、登場人物が勝手に動く、という感覚も得られそうです。

次回の小説塾の課題は、登場人物をプロファイリングしてから物語を書き始めようと思います。

評価が楽しみです。今までとは全く違う小説になる予感がするからです。

 

読んでくださったかた、ありがとうございます。

 

たわら