【小説塾全6回コース・第3回講評】この先には、何もありません

「楽に、楽しく書きたいのはわかるのですが、そのさきには闇の世界しか待っていません」

さて、1月から受講している薄井ゆうじ氏の「小説塾・6回課題コース」の第3回課題への講評が返ってきた。

前回とはうって変わって、厳しい講評が届いた。一言でいえば、作品を創るにあたって、向かう方向が違っている。

【小説塾全6回コース・第2回講評】完成度も高く、まとまっている

【課題】絵から物語を引き出す

今回の課題は、複数のイラストから何枚かを選び、そこから得た着想をもとに、物語を完成させること。400時詰原稿20枚以内。登場人物をいきいきと描写し、その有り様を風景と連動させることもポイントだった。

女性、男性、猫やらとある中で、僕が選択したのはカメラのイラストだった。両手とカメラのみのイラストを見たときに、別々の人間が協力してカメラをシャッターを押しているのだと直観したからだ。冒頭は、日頃から頭の片隅に居座っていたシーンからはじめた。ゴージャスな女性が、公衆電話で号泣している、そんなシーン。

【作品】「朽ち果てた飛行船」

今回提出した作品は次のようなもの。


23時。携帯電話を失くしたことに気付いたサラリーマン(主人公)は池袋駅の公衆電話を探す。珍しく先客がいる。ゴージャスな女性が電話口で泣き叫んでいる。小銭をせがまれ、長電話が終わるのをそばで待つ。女は話し終え、札を崩しに近くの売店へ。公衆電話から自分の携帯電話にかけると、男が出る。駅のホームで拾ったから、今から届ける、と男は言う。ただし切らないでほしい、とも。やがて携帯電話を手に現れた紳士。

ちょうど戻ってきた女性は、その紳士に向かって罵声を浴びせる。紳士は女性を見るなり、一目散に逃げる。サラリーマンの携帯電話を持ったまま。唖然とする主人公の手には通話中の受話器。「手を貸してくれ。拾ったんだ、御礼のひとつくらいかまわないだろう」と紳士の声が聞こえる。「十分後に池袋西口公園の喫煙所」通話が切れる。

池袋西口公園にはイベント用に舞台がある。その日そこには飛行船の骨組みが設置されていた。踏みつけられたチラシによれば、今週末に白い布をかぶせ、子どもたちがペンキで好きな色に塗るようだ。主人公には、それが朽ち果ていく途中の飛行船に見えた。

「彼女にカメラを渡し、写真をとらせてやってくれ。それが条件だ。被写体は私が用意する」とサラリーマンは頼まれる。紳士と女性は仕事仲間だった。サラリーマンは喫煙所に現れた女性にカメラを渡す。タバコを吸う姿で、はじめて女性が片腕であることに気付く。

すると、舞台に明りがともり、静かに音楽が鳴り出す。公園の利用者は舞台上にいる人間を笑う。黒いシルクハットに赤いステッキを身につけた紳士がリズムにのりステップを刻む。「今から予行練習をするつもりなのかしら」ゴージャスな女は怒りをにじませ、あきれた声を出しながら喫煙所を出る。

「これからだってときだったが、仕方ない。ステップを止める理由に彼らはそう言う。君たちはそんな人間にはならないでくれ。好きな色を選んで、音楽に耳をすませ、自分だけのリズムを見つけるんだ」紳士が大声で叫ぶ。「完成したようだね。記念写真を撮ってもらおう」紳士はステッキでゴージャスな女を指す。公園中の視線が二人に注がれる。

女は写真を撮らない。腕を失ってからカメラマンとしての自分が求めるレベルの写真が撮れなくなったからだ。紳士が女を煽る。女はあきらめ、サラリーマンに一眼レフのズームリングを操作するように頼む。「いまからほんとうの写真をとるわよ」

女が息をとめ、ストロボを焚いた瞬間にサラリーマンはそれを見る。舞台上にいるはずのない子どもたちが現れて、飛行船を自分たちで彩る。主人公の見覚えのある男の子がサラリーマンの名前を飛行船に記す。やがて、飛行船は胎動し浮上を開始した、かのように見えた。

「君はきっと何かを乗り越えたはずだ。顔をみればわかる」呆然としたサラリーマンが現実に戻ると、紳士と女性がお互いの瞳を見つめ合っていた。女性のあごを紳士が人差し指で持ち上げる。「記念に一枚写真を撮ってくれ」紳士がサラリーマンに携帯電話を投げる。唇が重なる。使い慣れた携帯電話でサラリーマンは写真を撮る。


【講評】「向かう方向性が間違っている」

かっこいい小説を読んだという読後感はあるが、何を伝えたいのかをほとんど理解できなかった、と講評ははじまる。好きなものを気ままに書いた作品が読者の心を打ったことはない。楽に、楽しく書きたいのはわかるが、このような作品の延長線上には何もない。

薄井氏も20代の頃にシュールな作品を書いていたが、ある小説家にそれでは駄目だと指摘されたことがあるそうだ。その小説家いわく、書くべきは、地に足をつけた人間の物語。腹が減り、生活にお金が必要で、住む場所も必要な、実態のある人間を動かして物語を書きなさい、と。

もういちど、方向性を立て直して、本当に優れた作品を書くのだという決意をするように、という一言で、講評は終わった。

【方向性】「地に足の着いた人間を書く」

シュールというか、ファンタジックというか、幻想的というか、ちょっと不思議な力が作用する物語が好きだ。例えば、偶然が立て続けに重なり、神秘的な光景が立ち上がり、主人公が何かを決意したり、物語が前進したりするような物語。そんな物語が好きだ。

方向性を変えろというのは、そのようないわば神秘的な物語を描くことが駄目なわけではないと思う。たぶん。ただ、その物語の中の人物の足を地につけて動かす必要がある、と指摘されているのだ。あるいはリアリズムに徹しろ、ということなのだろうか。

たわらさんは、もっとすごい、ぴりりとした感性を感じさせる作品がお書きになれるはずです。講評にはこんな1文があった。これを胸に努力してみよう。

次回の課題には次の2点を意識して取り組んでみることにします。

1 登場人物の内面を深く描写する

セリフ、風景などに登場人物の内面がにじみ出るように描写を心がける。

2 登場人物の心理の変化(成長)を描く

物語をくぐることによって、登場人物の心理がどのように変化したかを明確に伝える。その(おそらく)前向きな変化をセリフや風景に溶け込ませる。

とりあえず取り組んでみて、またフィードバックをもらおう。

読んでくださった方、どうもありがとう。







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