【ドッペルゲンガー・落雷・湧き出る熱】はじめて小説を書いたときのはなしをしよう

「さて--」名探偵は事件を解決するために過去を語らざるを得なかった。

 

こんにちは、たわら(@Whale_circus)です。

奪われたら魂が損なわれるものはありますか? 僕にとっては小説を書くことです。

なぜって? どうしてそこまでいい切れるのかって? ある体験をしたからです

今回ははじめて小説を書いたときに僕の身に起きた現象を語りたいと思います。
忘れないうちにあの不思議な記憶を書き記しておく必要を感じるからです。

ドッペルゲンガー、落雷、湧き出た熱、それらを書き残しておこうと思います。

1 僕がはじめて小説を書いたのは23歳の冬だった

その頃ほど体が重かった時期はなかった。大きな壁が立ちはだかっていた。その壁の存在は高校生の頃から認識していた。

将来をどんな風に生きるのか?

その問いは人生の節目で何度も眼前に迫ってきた。そのたびに当時の自分なりに苦悩したように思う。

それでも大学に進学したり、大学院に入学したりと、その回答期限を伸ばし続けた。

どうやってその壁を乗り越えられるか、それが問題だった。答えの出ない日々が続いた。

将来をどんな風に生きるのか?

その正しい答えは見つからなかった。

そして村上龍に出会う。そして教えられる。魂が焦がれるほど好きなものをみつけろ、と。それこそが人生を生きることだと。もはや呪いとでもいえるような問いは次のように変容した。

【人生への向き合い方】村上龍・カフカ・村上春樹に学ぶ、人生を後悔しない「それ」の追い求める方法

お前が好きなものはなんだ?

その答えもどこにも見つからなかった。好きなものもわからない自分への自己嫌悪は長い間僕につきまとい、そして僕はついに動けなくなってしまった。そして寝たきりになる時間が増えた時期だった。僕はそれと相対することとなった。

 

2 一生残るだろうあの記憶  ドッペルゲンガー

横になったまま動けなくなったある日のことだった。夜通しタバコを吸っていた僕が目覚めたときに、時間の流れを感知する機能は失われていた。夕方なのか夜中なのか、カーテンを締め切った部屋から外の気配はうかがえない。

人の気配が枕元にあった。その気配を手放して迎えるべき存在ではない、と直感した。が、それはすでに視界へ映り込んでしまっていた。僕の視線はその黒い存在に焦点を合わせた。

影だった。人の形をした影。人影は枕元に立って、僕の顔を覗きこもうとしていた。そいつが少しかがんだところで僕の記憶は断絶している。その後どうなったのか僕には覚えていない。

そして再び目覚めたあと、ああ、ドッペルゲンガーってやつなのか、と直感した。そしておそらくあれは僕自身の影なのではないか、と。非科学的で、非論理的な推論だ。しかし、そう納得してしまったのだから仕方ない。

出会ったら災いをもたらす、というあのドッペルゲンガーが枕元にたつほど水際に立っているのだ、と。

よほど状態が悪いと思った僕にはある考えがあった。物語は人間を救う、そして創造性は誰にでもある、と河合隼雄が断言したことを。そして、一人では解消できないほどのなにかを抱えている人々がときに芸術作品をつくり、自己治癒を成し遂げたことを。

物語を立ち上げることは自己治癒につながる

試してみよう、そう思った。くたばる寸前の青年が再生する物語を書いてみよう、と。自分が人生において小説を書くなんてつゆほども思っていなかった。子供の頃から読書は好きだったけれど小説を書く日がくるなんて思いもしなかった。芸術なんて吐瀉物だ、と村上龍は主張しているし、村上春樹のような神秘的な物語を立ち上げられる可能性があるなんて信じられなかったからだ。

しかし、書くよりほかに仕方がなかった。人影に出会ったのだから。

そして小説を書きはじめた。夜中だったと思う。暗がりでパソコンに恐る恐る文字を連ねた。

それは主人公を登場させ、動かした瞬間だった。その瞬間に僕はそれを感じることになる。人生に起きた二度目の不思議な体験だ。

 

3 一生残るだろうあの記憶  落雷と湧き出る熱

落雷があった。そしてピンスポットが僕に当たったのだ。もう一度繰り返そう、暗がりの中でキーボードを叩いた僕にどこからか光が差し込んだのだ。光に照らされた僕はびっくりすると同時に文字を連ね続けた。そして思った。心から強く思った。これこそが――小説を書くという行為こそが僕が心から求めていたことなのだと

あなたは笑うかもしれない。あるいは不気味がるかもしれない。そのどちらも正常な反応だと僕は思う。もちろんそれを経験する前の僕だったら同じように反応するに違いない。ドッペルゲンガーを見て、死ぬかもしれないと思って小説を書いたら、光に照らされてさ、これこそ我が人生って思ったんだ、なんて聞かされたら、こいつは頭がとんでいるじゃないかって。

あなたはさらに笑うかもしれない。なぜならもう一つそこから不思議な現象が僕に起きたからだ。

湧き出る熱だ。キーボードを叩き、文字を連ねる指先へと体の奥から熱い液体が流れ出ているのだ。しかも黄金色の熱だ。その発熱を体から逃すようにキーボードを叩き、物語を動かし続けたのだ。うれしくてしょうがなかったのを覚えている。蓋がはずれたのだ。そこからどぷどぷと金色のマグマが溢れ出し、胸を満たし、肩から腕へ流れ、指先から放出され、文字を刻んだ。刻まれた文字に反応しマグマは生成された。

体をとおして理解したのだ。それで納得したのだ。心の底から確信したのだ。ああ、物語を立ち上げるために生きているのだ、と。それが上手であろうと下手であろうとも根本的には関係ない。それをしなければならないのだ、と。

空手に人生を捧げてきた達人が自分の空手道の完成の瞬間に見た光景をどこかで読んだことがあった。それはありきたりな日常の中で劇的に起こったそうだ。つまり、朝の日課の散歩の途中に、空を見上げると、雲が割れ、金色の龍が舞っていた、と。当時の僕はうそっぱちだと笑い飛ばした。しかし、自分に起きた現象との共通点を思うとあながち間違いでもないのか、とその後考え直した。

この出来事があってから僕の人生は単純明快になった。なぜなら何を求めているのかを理解したからだ。あとは小説を毎日書く環境を整えるために生活をチューニングするだけだ。目下の課題はまさにそれだ。

 

お前が好きなものはなんだ? 小説を書くことです。

 

あなたはありますか? 人生ごと賭けてみたいことが。

もしないのなら記憶に立ち返ってみてください。子供の頃、何に魅了されていました?

わかったんじゃない 思い出したんだ

「あさくらさんしょ」ザ・クロマニヨンズ

 

読んでくださったかた、ありがとうございます。

たわら